Googleの自動運転車の事故に際して思う損害保険業界の未来

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自動運転車の実用化が段々と現実味を帯びてきた。おそらく技術的な革新よりも法整備のほうが追いつかず、日本における実用化は米国などにかなり遅れることになるのではないだろうか。とはいえ、10年ないし20年といった近い未来においては、かなり高い確率で自動運転車が公道を走っているだろうと容易に想像できる。

3月1日のニュースで、Googleの自動運転車が「初めて」過失事故を起こしたとのニュースがあった。

米Googleの自動運転車が公道で初の過失事故を起こしたことが、米カリフォルニア州陸運局(DMV:Department of Motor Vehicles)に2月23日付で提出された報告書で明らかになった。
Googleの自動運転車、初の過失事故を報告(負傷者はなし) (ITmedia ニュース) – Yahoo!ニュース



賠償責任の負担者は誰か

自動車事故では、運転者の過失に応じて賠償責任を負うのが一般的だ。(長くなるので運行供用者の責任などの説明については割愛する。)Googleの自動運転車が事故を起こした時、その車に搭乗していたドライバーは手動運転に切り替えず、自動運転状態のままであったそうだ。

さて、このケース、Google側の責任についてのみフォーカスすると以下のような責任がありそうだ。

  1. 危険を予知しながら手動運転に切り替えなかったドライバーの過失に対する責任
  2. バスが止まらないことを予測できなかったプログラムを作ったGoogleの過失に対する責任
  3. 自動運転車を所有し運行することを決定したGoogleの運行共用者としての責任

現在の世界中のどのようなタイプの自動車保険についても、今回のような事故は想定していない。これは想像の域を出ないが、今回の事故を無理やり保険で担保しようとするのなら、Googleが契約するCGL(Comprehensive General Liability insurance : 総合賠償責任保険)の特約などで対応することになるだろう。

自動運転車の事故処理と責任負担者について

保険会社における事故処理の現場では、事故の様態に応じて双方の過失割合のガイドラインがかなり細かく定められている。これは多くの事故を短い時間で処理する為に、過去の判例などを根拠としてガイドライン化したものだ。追突の場合は100:0、正面衝突なら50:50など、事故の起こった状態と優先道路や交差点の形状などとの組み合わせによって規定されたガイドラインだ。

自動運転車が実際に公道を走るようになると、これまでのガイドラインでは対応が難しい状況になるのは必定だ。

  • 自動運転車と手動運転車が事故を起こした場合、これまでと同じ過失割合を当てはめていいものかどうか。
  • 自動運転のソフトウェアに問題があることが証明できた場合、過失責任の負担者は誰になるのか?
  • 自動運転車同士の事故の場合、両方が同じバージョンのソフトウェアだったときの過失割合は、事故の様態にかかわらず50:50になるのか?また、損害賠償は両方共にソフトウェアを作った会社が負担するのか?
  • 同じく、それぞれ別のソフトウェアを搭載した自動運転車同士の事故の場合はどうなるか?
  • センサーなどの不具合が原因で自動運転が誤作動を起こした場合、部品メーカーが責任を負うのか?
  • 整備や運行前点検などが規定通り行われていた状態で発生した自動運転中の事故の場合、運行供用者、運行支配者や所有者のいずれにも責任は発生しないのだろうか?

さまざまなケースの民事および刑事の判例が出揃うまで、かなりの混乱が予想される。

少なくとも、自動運転車を製造するメーカーは、包括的な賠償責任保険に巨額の保険料を払うことになるのは間違いない。一方、リスクが部分的であれ減少するであろうドライバーが負担すべき保険料は減少していくだろう。

収入保険料が激減する時代に突入する

昨年、自動車保険の保険料を値上げして最近の数年間での最高益を叩きだした損害保険業界だが、早ければ来年度から収入保険料が減少の傾向をたどることになるだろう。

既に多くの新車に装備され始めた衝突防止システムだとか、人感センサーなどにより自動的に車をコントロールする安全装備を搭載した車について、10%程度の割引が適用されることになるようだ。

実態としてこれらの装備を搭載すると損害率が10%低下するのかどうかは未だ実績がないが、とりあえず割引制度を先行して導入し、実際の損害率をみながら割引率を調整するのではないかと見られる。場合によっては損害率が10%よりも低下し、さらなる割引競争が行われる可能性もあるだろう。横道にそれるが、メーカーや車種によってこの安全割引率が変わる運用になるとすると、保険料水準を見ることから逆にその車の安全性を推し量ることができて面白いかもしれない。

いずれにしろ業界をあげての談合でもない限り、これからの数年間は保険料は値下がりするトレンドになるのは間違いない。

さらに、自動運転車が一般公道を走る時代になると、事故が減少することが期待される。自動運転車の登場により期待通りの展開となれば、結果として自動車保険の収入保険料は激減することになるだろう。

損害保険会社の収益構造が激変する

日本の保険会社の元受正味保険料(売上高)のうち、実に43.8%が自動車保険料だ。(2014年度 損害保険協会加盟社分 – 日本損害保険協会 – SONPO | 統計・刊行物・報告書 - 統計 - 保険種目別データ)
協会加盟社全体で8兆8千2百億円余りの元受正味保険料のうち3兆8千6百億円余りが自動車保険料による。

自動車保険の損害率はおよそ62%(損害調査費を含まない粗損害率は約54.8%)で、代理店手数料がおそらく7%~15%程度、人件費や広告費・減価償却費などの社費20~25%程度を控除しても、各社2~5%程度の最終利益がでている主力商品である。

すなわち、元受保険料のうちおよそ38%にあたる1兆4千6百億余りの資金が、手数料や人件費や外注費など何らかの形で他の経済主体へ還流しているわけだ。

仮に自動運転車の登場によって収入保険料が20%減少した場合、業界全体で実に2千9百億円のフローが減少することになる。かなり乱暴な計算になるが、平均年収300万円の労働者にあてはめるなら、損害保険会社の正社員だけでなく代理店や業者の裾野まで含めて約10万人分の雇用に相当する。(なお、実際には社費率を高めに設定して収益を確保することになると思うので、単純にこのようになることはないと思われる。)

もしかしたら10年後には始まっている可能性も・・・

昨年の夏に公開されたものだが、米国のKPMGの調査レポートを下記のPDFで閲覧することができる。

Automobile insurance in the era of autonomous vehicles (PDF)

このレポートでは、2025年から2040年ごろまでには自動運転車がかなり一般化しているのではないかというロードマップをひいている。すなわち、10年から25年程度の近い未来の話ということだ。

合併を繰り返して人員がダブつき気味の現在の日本の損害保険会社にとって、さらに身を削ぎ落として人員を削減するのに10年という期間はかなり短く痛みを伴うのではないだろうか。

すでに業界構造の大変革をもたらす時限爆弾のタイマーは動き出している。

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